ら煙草をのんでいる。はき出す煙が鼻先からすぐ急角度に折れて、ちぎれ飛んだ。底に木を打った草履《ぞうり》をひきずッて、食物バケツをさげた船員が急がしく「おもて」の船室を出入した。――用意はすっかり出来て、もう出るにいいばかりになっていた。
雑夫《ざつふ》のいるハッチを上から覗《のぞ》きこむと、薄暗い船底の棚《たな》に、巣から顔だけピョコピョコ出す鳥のように、騒ぎ廻っているのが見えた。皆十四、五の少年ばかりだった。
「お前は何処《どこ》だ」
「××町」みんな同じだった。函館の貧民|窟《くつ》の子供ばかりだった。そういうのは、それだけで一かたまりをなしていた。
「あっちの棚は?」
「南部」
「それは?」
「秋田」
それ等は各※[#二の字点、1−2−22]棚をちがえていた。
「秋田の何処だ」
膿《うみ》のような鼻をたらした、眼のふち[#「ふち」に傍点]があかべをしたようにただれているのが、
「北秋田だんし」と云った。
「百姓か?」
「そんだし」
空気がムン[#「ムン」に傍点]として、何か果物でも腐ったすッぱい臭気がしていた。漬物を何十|樽《たる》も蔵《しま》ってある室が、すぐ隣りだった
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