雑夫長の顔を見い、見いそのことを知らせた。
「どうしても動かないんで、とうとうあきらめたらしいんだけど」
其処《そこ》へ、監督が身体をワクワクふるわせている雑夫を後からグイ、グイ突きながら、押して来た。寒い雨に濡《ぬ》れながら仕事をさせられたために、その雑夫は風邪をひき、それから肋膜《ろくまく》を悪くしていた。寒くないときでも、始終身体をふるわしていた。子供らしくない皺《しわ》を眉《まゆ》の間に刻んで、血の気のない薄い唇を妙にゆがめて、疳《かん》のピリピリしているような眼差《まなざ》しをしていた。彼が寒さに堪えられなくなって、ボイラーの室にウロウロしていたところを、見付けられたのだった。
出漁のために、川崎船をウインチから降していた漁夫達は、その二人を何も云えず、見送っていた。四十位の漁夫は、見ていられないという風に、顔をそむけると、イヤイヤをするように頭をゆるく二、三度振った。
「風邪をひいてもらったり、不貞寝《ふてね》をされてもらったりするために、高い金払って連れて来たんじゃないんだぜ。――馬鹿野郎、余計なものを見なくたっていい!」
監督が甲板を棍棒《こんぼう》で叩いた。
「
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