う》の間に身体をのたうっている、そのままだった。
「飯だ!」賄《まかない》がドアーから身体の上半分をつき出して、口で両手を囲んで叫んだ。「時化てるから汁なし」
「何んだって?」
「腐れ塩引!」顔をひっこめた。
思い、思い身体を起した。飯を食うことには、皆は囚人のような執念さを持っていた。ガツガツだった。
塩引の皿を安坐をかいた股の間に置いて、湯気をふきながら、バラバラした熱い飯を頬ばると、舌の上でせわしく、あちこちへやった。「初めて」熱いものを鼻先にもってきたために、水洟《みずばな》がしきりなしに下がって、ひょいと飯の中に落ちそうになった。
飯を食っていると、監督が入ってきた。
「いけホイドして[#「いけホイドして」に傍点]、ガツガツまくらうな。仕事もろく[#「ろく」に傍点]に出来ない日に、飯ば鱈腹《たらふく》食われてたまるもんか」
ジロジロ棚の上下を見ながら、左肩だけを前の方へ揺《ゆす》って出て行った。
「一体あいつ[#「あいつ」に傍点]にあんなことを云う権利があるのか」――船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、ブツブツ云った。
「浅川ッたら蟹工の浅か、浅の蟹工かッてな」
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