るようなものだった。
九
監督は周章《あわ》て出した。
漁期の過ぎてゆくその毎年の割に比べて、蟹の高はハッキリ減っていた。他の船の様子をきいてみても、昨年よりはもっと成績がいいらしかった。二千|函《ばこ》は遅れている。――監督は、これではもう今までのように「お釈迦《しゃか》様」のようにしていたって駄目だ、と思った。
本船は移動することにした。監督は絶えず無線電信を盗みきかせ、他の船の網でもかまわずドンドン上げさせた。二十浬《かいり》ほど南下して、最初に上げた渋網には、蟹がモリモリと網の目に足をひっかけて、かかっていた。たしかに××丸のものだった。
「君のお陰だ」と、彼は監督らしくなく、局長の肩をたたいた。
網を上げているところを見付けられて、発動機が放々の態《てい》で逃げてくることもあった。他船の網を手当り次第に上げるようになって、仕事が尻上りに忙しくなった。
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仕事を少しでも怠《なま》けたと見るときには大焼き[#「大焼き」に傍点]を入れる。
組をなして怠けたものにはカムサツカ[#「カムサツカ」に傍点]体操をさせる。
罰として賃
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