出稼《でかせ》ぎに出た。どっちの仕事も「季節労働」なので、(北海道の仕事は殆《ほと》んどそれだった)イザ夜業となると、ブッ続けに続けられた。「もう三年も生きれたら有難い」と云っていた。粗製ゴムのような、死んだ色の膚をしていた。
 漁夫の仲間には、北海道の奥地の開墾地や、鉄道敷設の土工部屋へ「蛸《たこ》」に売られたことのあるものや、各地を食いつめた「渡り者」や、酒だけ飲めば何もかもなく、ただそれでいいものなどがいた。青森辺の善良な村長さんに選ばれてきた「何も知らない」「木の根ッこのように」正直な百姓もその中に交っている。――そして、こういうてんでんばらばら[#「てんでんばらばら」に傍点]のもの等を集めることが、雇うものにとって、この上なく都合のいいことだった。(函館の労働組合は蟹工船、カムサツカ行の漁夫のなかに組織者を入れることに死物狂いになっていた。青森、秋田の組合などとも連絡をとって。――それを何より恐れていた[#「それを何より恐れていた」に傍点])
 糊《のり》のついた真白い、上衣《うわぎ》の丈《たけ》の短い服を着た給仕《ボーイ》が、「とも」のサロンに、ビール、果物、洋酒のコップを
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