持って、忙しく往き来していた。サロンには、「会社のオッかない人、船長、監督、それにカムサツカで警備の任に当る駆逐艦の御大《おんたい》、水上警察の署長さん、海員組合の折鞄《おりかばん》」がいた。
「畜生、ガブガブ飲むったら、ありゃしない」――給仕はふくれかえっていた。
漁夫の「穴」に、浜なす[#「浜なす」に傍点]のような電気がついた。煙草の煙や人いきれ[#「いきれ」に傍点]で、空気が濁って、臭く、穴全体がそのまま「糞壺《くそつぼ》」だった。区切られた寝床にゴロゴロしている人間が、蛆虫《うじむし》のようにうごめいて見えた。――漁業監督を先頭に、船長、工場代表、雑夫長がハッチを下りて入って来た。船長は先のハネ上っている髭《ひげ》を気にして、始終ハンカチで上唇を撫《な》でつけた。通路には、林檎やバナナの皮、グジョグジョした高丈《たかじょう》、鞋《わらじ》、飯粒のこびりついている薄皮などが捨ててあった。流れの止った泥溝《どぶ》だった。監督はじろり[#「じろり」に傍点]それを見ながら、無遠慮に唾をはいた。――どれも飲んで来たらしく、顔を赤くしていた。
「一寸《ちょっと》云って置く」監督が土方の棒
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