れる前に、それ/″\の取調べに當つた司法主任や特高は自腹(?)を切つて、皆に丼や壽司などを取り寄せて御馳走した。自分も一緒に食ひながら、急に、接木をしたやうな親しみを皆に見せた。
「とにかくさ、」――話のついでに(ついでに?)輕くはさんだ。「とにかく、こゝで取調べられた時に云つた通りの事を云へばいゝのさ。話がちがつたりすると、結局君等の不眞面目な態度が問題になつて、不利だからなあ……。」
そして世間話をしながら、又何氣ない調子で、その同じ事を繰り返した。
「こんなに奢つていゝのか。」意味をちアんと知つてゐる渡や工藤や鈴本はひやかした。
「分つた。分つた。何も云はない。その通りさ。」笑談半分に何度もうなづいて見せた。
初めての齋藤や石田は、變な顏をして御馳走をうけた。變だなあ、さうは思ふが、それが特高や主任の「手」であることは分らなかつた。彼等は、自分達の手で作りあげた取調書が豫審でガラリと覆へるやうなことがあると「首」が危くなつたり、「覺え」が目出度なくなり、昇進や出世に大きく關係したからだつた。その事情をすつかりつかんでゐる渡などは逆に利用して、札幌へ行く途中、付添の特高にねだつ
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