、そして電信柱、犬! 犬までが本當にゐる。子供、人、「自由に」歩いてゐる人達、何より自由に!
 あゝ、とう/\この世の中に歸つてきた!
 彼は其處を通つてゐる人に、男でも、女でも、子供にでも何か話しかけ、笑ひかけ走り廻りたい衝動を感じた。それはそして少しの誇張さへもない氣持だつた。彼は自分の胸をワク/\と搖ぶつて、底から出てくる喜びをどうする事も出來なかつた。「とう/\、とう/\出てきた!」彼は思はず泣き出した。泣き出すと、後から、後からと心臟の鼓動のやうに、ドキを打つて涙があふれてきた。彼は、道を歩いてゐる人が立ち止つて彼の方を不審に見てゐるのもかまはずに、聲を出して、しやくり[#「しやくり」に傍点]上げた。彼は何も考へなかつた。自分以外の[#「自分以外の」に傍点]誰のことも、何も! そんな餘裕がなかつた。
「とう/\出た! とう/\※[#感嘆符二つ、1−8−75]」

 ――佐多が出たといふ事が一人から一人へ、各監房にゐるものに傳つて行つた。[#「行つた。」は底本では「行つた」]
 渡は別にどういふ感じもそれに對しては起さなかつた。何も好きこのんで監房にたゝき込まれてゐる必要はない
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