がゐた。それは市内商店の依頼を受けると、道化の恰好をして、辻々に立ち、滑稽な調子で、その廣告の口上を云ふ。それに太鼓や笛が加はる。――それが一度留置場の外の近所でやつた。拍子木が凍えた空氣にヒヾでも入るやうに、透徹した[#「透徹した」は底本では「透轍した」]響を傳えると、道化した調子の口上が聞えた。
スワツ※[#感嘆符二つ、1−8−75] それは文字通り「スワツ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」だつた。留置場の中の全部は「城取り」でもするやうに、小さい、四角な高い處につけてある窓に向つて殺到した。遲れたものは、前のものゝ背に反動をつけて飛び乘つた。そして、その後へも同じやうに外のものが。――「音」には佐多ばかりではなかつたのだ!
彼は夜、何遍も母の夢を見た。殊に母が面會に來た日の夜、ウツラ/\寢ると母の夢を見、又寢ると母の夢を見………それが朝迄何回も續いた。
「お前やせたねえ。顏色がよくないよ。」
面會に來た母が彼の顏を見ると、見たゞけで息をつまらしてさう云つた。
「お前が早く出てきてくれるやうにツて、佛樣に毎日お願ひしてるよ。」母が皺くちやの汚れたハンカチを出して、顏を覆つた。
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