四日になり、十日になる、然しこれは、そんな風に單純に算えてしまふ事が出來ない長さ――無限の長さのやうに思はれた。渡や工藤や鈴本などはそれでもさういふ場所の「退屈」に少しは慣れてゐた。然し又、たとひ同じやうに慣れてゐないとしても、龍吉や佐多にくらべて、太い、荒い神經を持つてゐたので、よりそれには堪え得た。殊に佐多は慘めに參つてしまつた。
 佐多の入つてゐた處は渡のところから、さう離れてはゐなかつた。夜になり、佐多は身體の置き處もなく、話もなく、イラ/\するのにも中毒して、半分「バカ」になつたやうに放心してゐると、幾つにも扉をさえぎられた向う、から、低く、

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夜でも 晝で――エも
牢屋は暗い。
いつでも 鬼めが
窓からのぞく。
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 歌ふのが聞えてきた。渡が歌つてゐるのだ。立番の巡査もさう干渉しなくなつてゐるらしかつた。

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のぞことまゝよ、
自由はとらはれ、
×はとけず。
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 一番後の「×はとけず」の一聯に、渡らしい底のある力を入れて歌つてゐるのが分つた。そこだけを何度も、必ず繰り返して歌つた
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