はり」に傍点]、といふのは十中の八、九もう觀念しなければならない事を意味してゐたからだつた。[#「だつた。」は底本では「だつた」]
 演武場を出るときは、髮を長くのばしてゐたのを知つてゐた龍吉は、彼が地膚の青いのが分る程短く刈つて[#「刈つて」は底本では「刈つつて」]ゐたのに氣付いた。「頭は?」
 木下はフト暗い顏をした。
「あんまり、グン/\やられるんで刈つてしまつた。」
 持物が※[#「纏」の「广」に代えて「厂」、37−20]つてしまうと、巡査が木下をうながした。出しなに、木下は然し、何かためらつたやうに巡査に云つてゐる、すると、巡査は龍吉のところへ來て、面倒臭さうな調子で「木下が、煙草があつたら君から貰つてくれないかつて云つてゐるんだが。」と云つた。
 さうだ! 氣付いた。――組合でも、木下は煙草だけは皆から一本、二本と集めて、何時でも甘さうにのんでゐた。札幌へ護送される木下のために、せめて煙草だけでも贈ることが出來ることを龍吉は喜んだ。それが何よりだつた。彼は、まるで、周章てた人のやうに、自分の持物のところへ走つて、急いでバツトの箱を取り出した。所が何んといふ事だ、一箇しか無い
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