をひそめた。(以下四十七行削除)
 龍吉は明かに興奮してゐた。これ等のことこそ重大な事だ、と思つた。彼は、今初めて見るやうに、水戸部巡査を見てみた。蜜柑箱を立てた臺に、廊下の方を向いて腰を下してゐる、厚い巾の廣い、然し圓るく前こゞみになつてゐる肩の巡査は、彼には、手をぎつしり握りしめてやりたい親しみをもつて見えた。頭のフケか、ホコリの目立つ肩章のある古洋服の肩を叩いて、「おい、ねえ君。」さう云ひたい衝動を、彼は心一杯にワク/\と感じてゐた。

         九

 龍吉が演武場から隔離される二三日前の事だつた。夜の十時頃、組合で知り合つてゐた木下といふのが、巡査と一緒に演武場に入つてきた。そして二人で、彼がそこに殘して[#「殘して」は底本では「殘しに」]行つた持物を※[#「纏」の「广」に代えて「厂」、37−11]めにかゝつた。龍吉が眼を覺ました。
「オ。」龍吉が低く聲をかけた。
 木下は龍吉の方を見ると、頭をかすかに振つたやうだつた。――「札幌廻はしだ。」木下が低くさう云つた。
 龍吉は「う?」と云つたきり、いきなり何かに心臟をグツと一握りにされた、と思つた。札幌廻はり[#「札幌廻
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