當のところ、その瞬間慘酷だとか、苦しいとか、さういふ事はちつとも働かなかつた。云へば、それは「極度」に、さうだ極度に張り切つた緊張だつた。「仲々×ぬもんでない。」これはそのまゝ本當だつた。龍吉はさう思つた。然し彼がゴロツキの浮浪人や乞食などの入つてゐる留置場に入れられたとき、――入れられた、とフト意識したとき、それツ切り彼は××失つてしまつた。
次の朝、龍吉はひどい熱を出した。付添の年のふけた巡査が額を濡れた手拭で冷やしてくれた。始終寢言をしてゐた。一日して、それが直つた。ゴロツキの浮浪人が、
「お前えさんのウワ言は仲々どうして。」
龍吉はギヨツとして、相手に皆云はせず。「何んか、何んか?」と、せきこんだ。彼は付添えの巡査のゐる處で、飛んでもない事を云つてしまつたのではないか、とギクリとした。外國では、取調べに、ウワ言をする液體の注射をして、それに乘じて證言を取る、さういふ馬鹿げた方法さへ行はれてゐる事を、龍吉は何か本で讀んで知つてゐた。
「ねえ、仲々×ぬもんか。――一寸すると、又仲々×ぬもんか、さ。何んだか知らないが、何十回もそれツばつかりウワ言を云つてゐたよ。」
龍吉は肩に力
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