少し離れて、よそ[#「よそ」に傍点]の人達の探す手先を見てゐた。電燈のすぐ横にゐるせいか、父の顏が妙にいかつく[#「いかつく」に傍点]見えた。
 知らない人は五人ゐた。一人はひげ[#「ひげ」に傍点]を生やした一番上の人らしく、大きな黒い折鞄を持つて、探がしてゐる人達に何か云つた。云はれた人達は、その通りにした。巡査が二人ゐた。あとの二人は普通の服を着てゐた。――お父さんは何をしたんだらう。この人達はそして何をしやうとしてゐるんだらう。よその人は幸子の學校道具に手をかけたり、本を一册々々倒に振つたりした。色々な遊び道具を疊の上へ無遠慮に開けた。幸子は妙に感情がたかぶつてきた。そして、それが眼の底へヂクリ、ヂクリと涙をにぢませてきた。
「それは子供のばかりです……。」
 母が立つたまゝ、低い聲で云つた。よその人は生《なま》返事を口の中で分らなくして、然しやめなかつた。
 一通りの取調べが終ると、皆は一度室の中をグル/\見廻はして、出て行つた。襖が閉つた。――室が暗くなつた。幸子は危くワツと泣き出す處だつた。
 父と折鞄が始め低く何か云つてゐた。だん/\聲が高くなつてきて、何を話してゐるか幸
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