らもの[#「もの」に傍点]を下したり、新聞紙がガサ[#「ガサ」に傍点]/\いつたり、疊を起すやうな音がしたり、タンスの引出しを一つ一つ――七つ迄開けてゐる。それで全部だつた。幸子はそれを心で數えてゐた。すると、臺所の方では戸棚を開けてゐる。幸子は身體のずウと底の方からザワザワと寒氣がしてきた。さうなると、身體をどう曲げても、どう向きを變えても、その寒氣がとまらず、身體が顫えてきた。ひよい[#「ひよい」に傍点]とすると、齒と齒が小刻みにカタ/\と鳴つた。びつくりして、顎に力を入れて、それをとめた。父と母の一言も云ふのが聞えない。どうしてゐるんだらう。何か云つてゐるのは、よそ[#「よそ」に傍点]の人ばかりだつた。
自分の家には、何時でも澤山の人達がくる、然し今來てゐるのはさういふ人達とは、まるつきり異つた恐ろしい直感をおぼえさせた。
襖が開いた。急にまばゆい光が巾廣く、斜めに差しこんだ。幸子は周章てゝ眼をとぢた。心臟の鼓動が急にドキドキし出した。が、寢がへりを打つ振りをして、幸子は薄眼をあけて見た。母が胸の上に手をくみながら、自分の寢顏をみてゐた。血の氣のない無氣味な顏をしてゐる。父は
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