ラ……ホラ聞えないか?」暗がりで、變にひそめた聲が、彼のすぐ横でした。
佐多は始め何のことか分らなかつた。
「ぢつとしてれ。」
二人は息をしばらくとめた。全身が耳だけになつた。深夜らしくジイン、ジーン、ジーンと耳のなる音がする。佐多はだん/\睡氣から離れてきた。
「聞えるだらう。」
遠くで劍術をやつてゐるやうな竹刀の音(たしかに竹刀の音だつた。)が彼の耳に入つてきた。それだけでなしに、そしてその合間に何か肉聲らしい音も交つてきこえた。それは然しはつきり分らなかつた。
「ホラ、ホラ…‥ホラ、なあ。」その音が高まる度に、不良少年がさう注意した。
「何んだらう。」佐多も聲をひそめて、彼にきいた。
「××さ。」
「…………?」いきなり咽喉へ鐵棒が入つたと思つた。
「もつとよく聞いてみれ。いゝか、ホラ、ホラ、あれア×××××奴のしぼり上げる××。なあ。」
佐多には、それが何んと云つてゐるか分らなかつたが、一度きいたら、心にそのまゝ泌み込んで、きつと一生忘れる事が出來ないやうな××××××だつた。彼はぢいと、それに耳をすましてゐるうちに、夜無氣味な半鐘の音をきゝながら、火事を見てゐる時のや
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