うに、身體が顫はさつてきた。「齒の根」がどうしても合はなかつた。彼は知らない間に片手でぎつしり敷布團の端を握つてゐた。
「分る、分るよ! な、×せ――え、×せ――えツて、云つてるらしい。」
「××――えツて?」
「ん、よく聞いてみれ。」
「なア、なア。」
「………………」
佐多は耳を兩手で覆ふと、汗くさいベト、ベトした布團に顏を伏せてしまつた。彼の耳は、そして又彼の腦膸の奧は、然しその叫聲をまだ聞いてゐた。しばらくして、それが止んだ。取調室の戸が開いたのが聞えてきた。二人は小さい窓に顏をよせて廊下を見た。片方が引きづられてゐる亂れた足音がして、二人が前の方へやつてくるのが見えた。薄暗い電燈では、それが誰か分らなかつた。うん、うん、うんといふ聲と、それを抑へる低い、が強い息聲が靜まりかへつてゐる廊下にきこえた。彼等の前を通るとき、巡査の聲で、
「お前は少し強情だ。」
さう云ふのが聞えた。
佐多はその夜、どうしても眠れず、ズキ、ズキ痛む頭で起きてしまつた。
彼は「××」それを考へると、考へたゞけで背の肉がケイレンを起すやうに痛んだ。膝がひとりでにがくつい[#「がくつい」に傍点]て、
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