男が、
「可哀相に、お前さんのやうな人の來る處ぢやないのに。」と彼に云つた。
思はず、その言葉に彼は胸がふツとあつくなり、危く泣かされる處だつた。彼はしかもさういふ氣持を押えるのではなしに、かへつて、こつちからメソ/\と溺れ、甘えかゝつて行く處さへあつた。さうでなければ、たまらなかつた。
初めての――しかも突然にきた、彼には強過ぎる刺戟に少し慣れてくると、佐多はその考から少しづゝ拔け出てくる事が出來るやうになつた。少しの犧牲もなくて、自分達の運動[#「自分達の運動」に傍点]が出來る筈がなかつた。自分ではちつとも何もせず、一足飛びに直ぐ、(キツト他の誰かゞしてくれた)××の成就してしまつた世界のことだけを考へて、興奮してゐる者にはかういふ經驗こそ、いゝいましめだ。――そこ迄佐多は自分で考へ得れる餘裕を取りもどしてゐた。彼は憂鬱になつたり、快活になつたりした。恐ろしく長い、しかも何もする事なく、たつた一室の中にだけゐなければならない彼には、その事より他に考へることが無かつた。
夜、十二時を過ぎてゐた頃かも知れなかつた。佐多は隣りに寢てゐた「不良少年」に身體をゆすられて起された。
「ホ
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