はその時、何か云はふとするやうに皆の寢てゐる所を見廻はした。が、身體を廻はすと、ズングリな後を見せて出て行つた。――がちやん[#「がちやん」に傍点]と鍵が下りた。二人の、歩調の合つてゐない足音が廊下に何時までも聞えてゐた。
 寢がへりを打つ音や、嘆息や、發音の分らない寢言などが、泥沼に出るメタン瓦斯のやうにブツ/\起つた。

         八

 警察署は、一週間のうちに勞働運動者、勞働者、關係のインテリゲンチヤを二百人も、無茶苦茶に、豚のやうにかりたてた。[#「。」は底本では「、」]差入れにきた全然運動とは無關係の弟を、そのまゝ引きづり込んで「×××××」一週間も歸さなかつた。[#「歸さなかつた。」は底本では「歸さなかつた」]だが、こんな事はエピソ−ドの百分の一にも過ぎない。

 取調べが始つた。
 渡に對しては、この×××××がなくても、警察では是が「非でも」やツつけなければならない、と思つてゐた。合法的な[#「合法的な」に傍点]黨、組合の運動に楔のやうに無理にねぢこんで、渡を引ツこ拔かうとした。普段から、してゐた。さういふ中を彼は、然し文字通りまるで豹のやうに飛びまはつてゐた
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