かつたので、彼は獨りで微笑ましくなつた。龍吉はズキン、ズキンと底から(さうひどくはなかつたが)痛んでくる胃を、片手で揉むやうに押しながら、色々なことを考へてゐた。……
「オイ/\。」――誰だ、と思つた。今こんな面倒な頁を讀んでゐるのにと思ふと、ムラ/\ツと癪にさわつた。「オイオイ。」ぐいと肩をつかまれた。糞ツ! 振りかへらふとして、龍吉は眼をさました。非常に眠かつた。その瞬間、ダブつた寫眞のやうに、夢と現實の境ひをつけるのに、彼はしばらく眼をみはつた。さうだ、すぐ眼の前に汚い、鬚だらけの大きな巡査の顏があつた。
「オイ/\、起きるんだ[#「起きるんだ」は底本では「起きるんた」]。取調べだ。」
ギヨツとすると、龍吉は自分でも分らずに、身體を半分起してゐた。
寢ぼけた處を引張つて行く何時もの彼等の手だつた。ガヂヤ/\と、靜かな四圍に不吉な鍵の音をさして、巡査のあとから龍吉はついて出た。
三十分程した。凄い程すつかり顏色のなくなつた工藤が巡査に連れられて歸つてきた。が、演武場に置いておいた荷物を※[#「纏」の「广」に代えて「厂」、26−21]めると、すぐ巡査にうながされて出て行つた。彼
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