ぢや組織體としての俺達の運動は出來ないんだから。」
「うん、うん。」
「これから色々困難なことに打ち當るさ。さうすればキツトこんな事で、案外重大な裂目を引き起さないとも限らないんだ。俺たちはもつと/\、かういふ隱れてゐる、何んでもないやうな事に本氣で、氣をつけて行かなければならないと思つてるよ。」
「うん、うん。」石田は口のなかで何邊もうなづいた。
二人がストーヴに寄つてゆくと、皆は巡査と一緒に猥談をやつてゐた。どういふわけで引張られてきたかちつとも分らないと云つてゐた勞働者は二三人ゐた。それ等は初めからオド/\して、側から見てゐられない程くしやん[#「くしやん」に傍点]としてゐた。が、時々その猥談に口をはさんだり、笑つてゐた。話がとぎれて、一寸皆がだまる事があると、走り雲の落してゆく影のやうに、彼等の顏が瞬間暗くなつた。
齋藤が手振で話してゐたのは、女の××のことだつた。それが口達者なので、皆を引きつけてゐた。話し終ると、
「ねえ、石山さん、煙草一本。」
一生懸命に聞いてゐた頭の毛の薄い、肥つた巡査に手を出した。
石山巡査は、下品にえへ、えへゝゝゝと笑ひながら、上着の内隱し[
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