#「内隱し」に傍点]から、くしや/\にもまれて折れさうになつてゐたバツトを一本出して、齋藤に渡してくれた。
「有難え、有難え。もう一席もツと微細なところをやるかな。」
 こすい[#「こすい」に傍点]眼付きで、相手をちらつと見て笑つた[#「笑つた」は底本では「笑つつた」]。齋藤はそれを掌の上で丹念に直して、それからそれに唾を塗つて成るべく遲くまで殘るやうに濡した。
「いや、忽體ない。これは後でゆつくりとやる。」そして耳に煙草をはさんだ。
「――早く何んとかしてくれないかな。」
 片隅で誰か獨言した。
 皆はその言葉でひよいと又、自分の心に懷中電燈でもつきつけられたやうに思つた。
「濱の現場から引つぱられて來たんで、家でどツたらに心配してるかツて思つてよ。俺働かねば嬶も餓鬼も食つていけねえんだ。」
「俺らもよ。」
「……こんな運動こり/″\[#「/″\」は底本では「/\」]した。おツかねえ。」――變に實感をこめて、さう云つたのは相當前から組合にゐる勞働者だつた。
「どうしてよ!」齋藤が口を入れた。
 齋藤に云はれて、その勞働者は口をつむんでしまつた。齋藤は怒つた調子を明ら樣に出して「うん?
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