うん。」
「齋藤なんぞ。」さう云つて、ストーヴのそばで何か手振りをしながらしやべつてゐる齋藤を見ながら、「此前だ、警察へ引つぱられてきて、一番罪が輕かつたら、それを恥かしく思つて首でも吊らなかつたら、そんな奴は無産階級の鬪士でないなんて云ひ出したもんだ!」
「……うん、いや、その氣持も運動をしてゐるものがキツト幾分はもつ……何んて云ふか、センチメンタリズムだよ。同志に濟まないつて氣がするもんだからな、そんな場合、然し、勿論それア機會ある毎に直して行かなけアならない事だよ。」
石田は相手を見て、何か言葉をはさもうとした、然しやめると、考へる顏をした。
「それは然し、案外面倒な方法だと思ふんだ。そいつをあまり眞正面から小兒病だとか、なんとか云ひ出すと、處が肝心要めの情熱そのものを根つからブツつり引つこ拔いてしまふ事にならないとも限らないからなあ。勿論それア、その二つのものは別物だけどさ[#「だけどさ」は底本では「たけどさ」]。」
石田は自分の爪先きを見ながら、その邊を歩き出した。
「大切なことはその情熱をそのまゝ正しい道の方へ流し込んでやるツて事らしいよ。――情熱は何んと云つたつて、矢
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