自分の身體が紙ツ片のやうに輕くなつたのを感じた。彼は片手を洗面所の枠に支へると、反射的に片手で自分の相から[#「相から」はママ]頬をなでた。顏?――それが×だらふか? ××××××××××××××××××、文字通り「××」××、そして、それが渡ではないか!
「×××××。」自分で自分の顏を指すやうな恰好で、笑つてみせた。笑顏!
石田は一言も云へず、そのまゝでゐた。心臟の下あたりがくすぐつたくなるやうに、ふるえてきた。
「然し、ちつとも參らない。」
「うん……」
「皆に恐怖病にとツつかれないやうにつて頼むでえ。」
その時は、それだけしか云へる機會がなかつた。
「キツト何かあつたんだと思ふんだ。」石田が怒つたやうに、低い聲で云つた。
「うむ。…‥心當りがないでもないが。然し、大切なことは矢張り恐怖病だ。」龍吉はストーブの廻りにゐる仲間や巡査の方に眼をやりながら云つた。
「それアさうだ。然し警察へ來てまで空元氣を出して、亂暴を働かなけア鬪士でないなんて考へも、やめさせなけア駄目だ。警察に來ておとなしくしてゐるといふのは何も恐怖病にとツつかれてゐるといふ事ではないんだと思ふ。」
「さうだ、
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