敷だつた。室の三方が殆んど全部硝子窓なので、明るい外光が、薄暗い處から出てきた皆の眼を初めはまばゆくさせた。中央には大きなストーヴが据えつけられてゐた。お互に顏を見知つてゐるものも多かつたので、ストーヴを圍むと、色々な話が出た。監視の巡査は四人程ついた。巡査も股を廣げて、ストーヴに寄つた。
日暮れになると皆表に出された。裏口から一列に並んで外へ出ると、警察構内を半廻りして、表口から又入れられた。「盥廻し」をされてしまつたのだつた。急に皆の顏が不安になつた。どや/\と演武場に入つてくると、お互に顏を寄せて、どうしたんだと云ひ合つた。今度の檢束が何か別な原因からだ。といふ直感が皆にきた。實の入つてゐない鹽ツ辛い汁で、粘氣がなくてボロ/\した眞黒い麥飯を食つてしまつてから、皆はまたストーヴに寄つた。が、ちつとも話がはづんで行かなかつた。
八時過ぎに、工藤が呼ばれて出て行つた。皆はギヨツとして、工藤の後姿を見送つた。
夜が更けてくると、ブス/\煙ぶつてゐるやうな安石炭のストーヴでは室は温くならなかつた。背の方からゾク/\と寒さが滲みこんできた。龍吉は丹前を持ち出しに、薄暗い隅の方へ行つた
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