て滿足を感じた。口笛を吹きながら、コールテンのズボンに手をつツこんで、離れてみたり、近寄つてみたりした。
 夜が明けてゐた。電燈が消えると然し、眼が慣れない間、室の中が急に暗くなつた。壁の樂書も見えなくなつた。青白い、明け方の光が窓の四角に區切られて、下の方へ三、四十度の角度で入つてきてゐた。渡は急に大きく放屁した。それから歩きながらも、力を入れて、何度も續けて放屁した。屁はいくらでも出た。そしてそれが自分でも嫌になるほど、しつこく臭かつた。「えツ糞、えツ糞!」渡はその度に片足を一寸浮かして放屁した。

 八時頃かも知れなかつた。入口の鍵がガチヤ/\鳴つた。戸が開いて、腰に劍を吊してゐない巡査が指先の分れてゐる靴下に草履を引つかけて入つてきた。
「出るんだ。」
「動物園の獸ぢやないよ。」
「馬鹿。」
「歸してくれるのかい、有難いなア。」
「取調だよ。」
 さう云つたが、急に「臭い臭い!」と 廊下に「#「 廊下に」はママ]飛び出てしまつた。

         七

 その日のうちに、又五、六人の勞働者が連れられて來た。室が狹くなると、皆は演武場の廣場に移された。室の半分は疊で、半分は板
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