初組合に踏込まれたときと同じやうに、)自分等が主になつてやつてゐる非合法的な運動が發覺した、と思つた。瞬間、やつぱり顏から血がスウと引けてゆくのが自分でも分つた。彼にとつては、然し、それはそれつきりの事だつた。すぐ何時ものに歸つてゐた。そして殊に獨房にどつかり坐つたとき、遠い旅行から久し振りで自家に歸つてきた人のやうな、廣々とつくろいだ氣持を覺えた。――渡でも誰でも、朝眼をぱつちり開ける。と待つてゐたとばかりに、運動が彼をひツつかんでしまふ。ビラを持つて走り廻る。工場の仲間や市内の支部を廻つて、報告を聞き、相談をし、指令を與へる。中央からのレポートがくる。それが一々その地の情勢に應じて色々の形で實行に移されなければならない。委員會が開かれる。石投げのやうな喧嘩腰の討論が續く。謄寫板。組合員の教育、演説會、――準備、ビラ、奔走、演説、檢束……彼等の身體は廻轉機にでも引つかゝつたやうに、引きずり廻はされる。それは一日の例外もなしに、打《ぶ》ツ續けに、何處迄行つても限りのない循環小數のやうに續く。――もう澤山だ! さう云ひたくなる位だ。そしてそのあらゆる間、絶え間なく彼等の心は、張り切り得る
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