は、紙を見て、一人々々名前を呼んで、その者だけを廊下に出るやうに云つた。ブツ/\云ひながら、呼ばれた者は小さい潜り戸を、蹲みながら出て行つた。あとに六人殘つた。
倒れた齋藤が横になつたまゝ、身體を尺取蟲のやうにして起き上らうとしてゐた處を、先の巡査は靴のまゝ、續けて二度蹴つた。
しばらくして、又別な巡査が入つてきて、中にゐる六人に一人づゝ付添つて、話も出來ないやうにして[#「して」は底本では「しで」]しまつた。
龍吉は高く取り付けてある小さい窓の下に坐つた。汚く濁つた電燈の光が、皆の輪廓をぼかして、動いてゐるのは影だけでゞもあるやうな雰圍氣だつた。それが五分經ち――十分經つて行くうちに、初め黄色ツぽい光だつた電燈がへんに薄れて行くやうで――一帶が青白くなり、そしてだん/\に、室の中が深い海底でゞもあるやうな色に變つてゆくのが分つた。何處か一部分だけがズキ/\する頭で、龍吉は夜が明けかゝつてゐるのだな、と思つた。
構内は靜かになつた。凍え切つた靜かさだつた。時々廊下を小走りにゆくコツ/\といふ靴音がした。足音が止んで扉を開ける、それが氷でも碎ける音のやうに聞えた。ドタ/\と足音か
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