傍点]で! 五人、十人の偉さうな亂暴と狂燥は何んにもならないんだ。俺達が夢にでも忘れてはならない原則にもどるよ[#「もどるよ」はママ]。」
「そ、そんなことで、ぢつとしてられるか! それこそ偉さうな理窟だ、理窟だ!」
 石田は側で、相變らずだなア、と思つた。巡査が四人入つてきた。
 皆はギヨツとして、そのまゝの恰好に、ぢいツとしてゐた。顏一面ザラ/\したひげの、背の低い、がつしりした身體つきの巡査が、留置場の中をグル/\見廻はしてから、
「貴樣等、こゝは警察だ位のことは分つてるんだらうな。何んだこのやかましさは!」
 一人々々の肩をグイ/\と押しのめした。齋藤の處へ來たとき、彼はひよいと肩を引いた。はづみを食らつて、巡査の手と身體が調子よく前にヨロ/\と泳いだ。と、巡査は「この野郎!」と無氣味な聲で云ふと、いきなり、齋藤の身體に自分の身體をすり寄せた。齋藤の身體は空に半圓を描いて、龍吉の横の羽目板に「ズスン」と鈍い音をたてて、投げつけられてゐた。
 巡査はせわしく肩で息をして、少しかすれた聲で「皆、覺えておけ。少しでも騷いだりすると覺悟が要るんだぞ!」と云つた。
 後から入つてきた巡査
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