もかも犧牲にしてやつて、それが一體どの位の役に立つんだらう。――プロレタリアの社會が、さう/\來さうにも思へない。お惠はひよい/\考へた。幸子もゐる、本當のところあんまり飛んでもない事をしてもらひたくなかつた。夫のしてゐる事が、ワザ/\食へなくなるやうにする事であるとしか思へなかつた。
 然しお惠は組合の人達の色々な話や勞働者の悲慘な生活を知り、勞働者達は苦しい、苦しくてたまらないんだ、だから彼等は理窟なしに自分達の生活を搾り上げてゐる金持に「こん畜生!」といふ氣になるのだ。組合の人達はそれを指導し、その鬪爭を擴大してゆく、お惠にはさういふ事も分つてきた。夫達のしてゐる事が、それがお惠には何時見込のつくことか分らない事だとしても、非常に「大きな」「偉い」事だ、といふ一種の「誇り」に似た氣持さへ覺えてきた。
 龍吉は三度目の檢束で、學校が首になり、小間物屋でどうにか暮して行かなければならなくなつた。その時――何時か來る、その漠然とした氣持はもつてゐたのだが――お惠は何かで不意になぐられたやうなめまひ[#「めまひ」に傍点]を感じた。然しそのことにこだわつて、クド/\云はない程になつてゐた。
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