キがその「恐ろしい」ストライキである事が、はじめはどうしても呑込めなかつた。
「誰にとつ[#「誰にとつ」に傍点]て、一體あのストライキが恐ろしいつて云ふんだ。金持にかい、貧乏人にかい。」
夫にさう云はれた。が、腹からその理窟が分りかねた。
「理窟でないよ。」
新聞には、毎日のやうに大きな活字で、ストライキの事が出た。O全市を眞暗にして、金持の家を燒打ちするだらうとか、警官と衝突して檢束されたとか、(さういふ中に渡や工藤がゐたりした。)このストライキは全市の呪ひであるとか……。お惠は夫の龍吉までが、殆んど組合の事務所に泊りつきりでストライキの中に入つてゐる事を思ひ、思はず眉をひそめた。龍吉が、寢不足のはれぼつたい青い、險をもつた顏をして歸つてきたとき、「いゝんですか?」ときいた。
「途中スパイに尾行《つけ》られたのを、今うまくまい[#「まい」に傍点]て來たんだ。」
そして、すぐ蒲團にくるまつた。「五時になつたら起してくれ。」
お惠はその枕もとに、しばらく坐つてゐた。お惠はこんな場合、何時でも夫のしてゐることを言葉に出してまで云つた事がなかつた。然し、やつぱり、そんなに苦しんで、何
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