夫達は誰のためにやつてゐるのだ。お惠は變に淋しい物足りなさを感じた。夫達がだまされてゐる! 馬鹿な、何を云ふ! 然し、暗い氣持は馬虻のやうに、しつこくお惠の身體にまつはつて離れなかつた。
[#地から5字上げ]―― 次號完結 ――
五
××日の夜明、警察署からは帽子の顎紐をかけた警官が何人も周章た樣子で、出たり入つたりしてゐた。それが何度も何度も繰返された。空色に車體を塗つた自動車も時々横付けにされた。自動車がバタ/\と機關の音をさせると警察のドアーが勢よく開いて、片手で劍をおさへた警官が走つて出てきた。自動車は一きわ高い爆音をあげて、そこから直ぐ下り坂になつてゐる處を、雪道の窪みにタイヤを落して、車體をゆすりながら、すべり下りて、直ぐ見えなくなつた。一寸すると戻つてきて、別な人を乘せると、又出た。
留置場は一杯になつてゐた。
先きに入られた者等は、扉の錠がガチヤ/\し出すと、今迄勝手にしやべり散らしてゐたのを、ぴたりやめて、其處だけに眼を注いで――待つた。入つてきたのが、渡、鈴本、齋藤、阪西達だと分ると思はず一緒に歡聲をあげた。警備に當つてゐる巡査が鷄冠の
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