やうに赤くなつて、背のびをしながら怒鳴つたが、ちつとも効めがなかつた。一緒にされた十四五人は皆何時も顏を合せ、第一線に立つて鬪爭してきたものばかりだつた。
 彼等は、それ/″\自分の相手に、興奮してこの不法行爲に就いて、大聲で議論をし合つた。そして彼等は、皆が一緒になつたといふ事から、それに恃んで[#「恃んで」は底本では「侍んで」]、無茶苦茶な亂暴をしたい衝動にかられた。
 齋藤は、いきなり身體をマリのやうに縮めると、ものも云はずに、板壁に身體全部で打ち當つて行つた。唇をギユツとかんで、顏を眞赤にして力みながら、鬪牛のやうに首を少しまげて、それを繰り返した。
「チエツ!」
 駄目だと[#「駄目だと」は底本では「駄日だと」]分ると、今度は馬のやうに後足で蹴り出した。皆も眞似をして、てんでに、板壁をたゝいたり、蹴つたりした。石田は(彼だけ)腕ぐみをして、時々獨言を漏らしながら、室の中央を歩いてゐた。
 又扉が開いた。然し今度は鈴本と渡が呼び出されて行つた。「どうしたんだ。」――皆は頭株の二人がゐなくなると、變に氣拔けしてきた。そして壁をたゝくものが、一人やめ、二人やめ、だん/\やめてしまつ
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