さい!」
 彼は母をつツ飛ばすやうにして表へ出てしまつた。外へ出てしまうと、然し逆な氣持が起つてきた。
「お母さんには分らないんだ。」
 佐多は十六日に、仲間から龍吉の方や組合に大檢擧のあつた事をきいた。然しその仲間も、それが何んのことでやられたのか見當がついてゐなかつた。佐多は家へ歸ると、色々な書類を※[#「纏」の「广」に代えて「厂」、71−11]めて近所の家へ預け、整理してしまつた。その日は何んでもなかつた。彼はホツとする一方、組合へ出掛けて行つて、樣子を見てみやうと思つた。そこへ前の仲間が來て、組合や黨の事務所には私服が澤山入りこんでゐて危いことを知らせてくれた。そして組合にウツカリ來る者は、それが關係のあるものであらうと、無からうと引張つてゆく。組合の小林が十五日の午後、何氣なく組合に行くと、私服がドカ/\と出てきて、いきなり小林をつかまえた。小林はハツとして、突嗟に、俺は印刷屋の掛取りだ。掛を取りに來たんだ、と云つたら、今誰も居ないから駄目、駄目、と云つてつツ返へされてきた。彼は勿論その足で、組合員の家を廻つて、注意するやうに云つた。仲間はそんな事を話した。彼は行かないでよか
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