ると、
「ぢや、行つといで。」と云つた。
「ウム。」
「今度は何んだの。當てがある?」
 彼は默つてゐた。が、
「どうだ、やつて行けるか。長くなるかも知れないど。」
「後?――大丈夫。」
 お由は何時もの明るい、元氣のいゝ調子で云つた。
 漠然ではあるが、何のことか分つてゐる一番上の子供が、
「お父《どう》、行《え》つてお出《え》で。」と云つた。
「こんな家へくると、とてもたまつたもんでない。」警官が驚いた。「まるで當り前のことみたいに、一家そろつて行つてお出で、だと!」
「こんな事で一々泣いたり、ほえたりしてゐた日にや、俺達の運動なんか出來るもんでないよ。」
 工藤は暗い、ジメ/\さを取り除くために、毒ツぽく云ひ返した。
「この野郎、要らねえ事をしやべると、たゝきのめすぞ。」
 警官が變に息をはづませて、どなつた。
 彼は妻に何か云ひ殘して行きたいと思つた。然し口の重い彼は、どう云つていゝか一寸分らなかつた。妻が又苦勞するのか、と思ふと、(勿論それは自分の妻だけではないが、)膝のあたりから、妙に力が拔ける感じがした。
「本當、どうにかやつて行けるから。」
 お由は夫の顏を見て、もう一
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