、然し障子紙など買ふ金がなかつたので、組合から「無産者新聞」や「勞働農民新聞」の古いのを貰つてきて、それを貼つた。煽動的なストライキの記事とか、大きな「火」のやうな見出しが斜めになつたり、倒になつたり、半分隱れたりして貼られた。お由は暇な時、ボツリ、ボツリそれを讀んでゐた。子供から「これ何アに、あれ何アに」と聞れるたびに、それを讀んできかせた。家の壁には選擧の時に使ひ餘つたポスター、ビラ、雜誌の廣告などをべた/\貼りつけた。渡や鈴本が工藤の家にやつてくると「ほオ!」と何度もグル/\見廻はつて歩いて、「我等の家[#「我等の家」に傍点]」だなんて云つて、喜んだ。
……工藤は起き上ると、身仕度をした。身支度をしながら、工藤は今度は長くなると思つた。さうなれば、一錢も殘つてゐない一家がその間、どうして暮して行くか、それが重く、じめ/\と心にのし[#「のし」に傍点]かゝつてきた。これは、こんな場合、何時でも同じやうに感ずる氣持だつた。然し何度感じやうが、組合で皆と一緒に興奮してゐる時はいゝ、然しさうでない時、子供や妻の生活を思ひ、やり切れなく胸をしめつけられた。
お由は手傳つて、用意をしてや
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