下がつてきて、頬とまぶたが充血して腫れ上つた。十七の時、隣り村の工藤に嫁入した。が、その次の次の日から(!)――丁度秋の穫入れが終つた頃なので――工藤と二人で近所の土工部屋にトロツコ押しに出掛けて行かなければならなかつた。雜巾切れのやうに疲れ切つて歸つてくると、家の中の仕事は山のやうに溜つてゐた。お由は打ちのめされた人のやうに、クラツ/\する身體でトロツコと臺所の間を往き來した。ジリ/\燒けつく日中に、トロツコを押しながら、始めての夫婦生活の疲勞と月經から氣を失つて、仰向けにぶツ倒れた事があつた。
子供が生れてから、生活は尻上りに、やけに苦しくなつてきた。そんな時になつてどうすればいゝか分らなくなつた工藤は、自分とお由とで行李を一つづゝ背負つて、暗くなつてから村を出てしまつた。暗い、吹雪いた、山の鳴る夜だつた。そして北海道へ渡つてきた。
小樽で二人はある鐵工場に入つた。が、北海道と内地とは、人が云ふほどの大した異ひはなかつた。こゝも矢張りお由達には住みいゝ處ではなかつた。では、何處へ行けばよかつたらう。だが、何處へ行くところがある! プロレタリアは何處へ行つたつて、同じことだ……。
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