家庭。」暗い電燈さへ無い彼等には、そんなものは糞喰えだつた。
「逃げないから大丈夫。」さう云つて、工藤が笑つた。
お由は泣いてゐる子供に、「誰でもないよ。何時も來る人さ。何んでもない[#「何んでもない」は底本では「何んでなもい」]、さ、泣くんでない。」と云つてゐた。子供は一人づゝ[#「づゝ」は底本では「つゝ」]泣きやんで行つた。工藤の子供達は巡査などに慣れてさへゐた。組合の人達は、冗談半分だけれども、お由が自分の子供等に正しい「階級教育」をほどこしてゐるといふので、評判を立てゝゐた。が、お由は勿論自分では何か理窟があつて、さうしてゐるのではなかつた。――お由は秋田のドン[#「ドン」に傍点]百姓の末娘に生れた。彼女は小學校を二年でやめると、十四の春迄地主の家へ子守にやられた。そこでお由は意地の惡い、氣むづかしい背中の子供と、所嫌はずなぐりつける男の主人と、その主人よりもつと慘忍な女主人にいぢめられ、こづき廻はされた。五年の間、一日の休みもなく、コキ[#「コキ」に傍点]使はれた。そして、やうやく其處から自家へ歸つてくると、畑へ出された。一日中蝦夷のやうに腰を二つに折り、そのために血が頭に
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