かつた。自家《うち》へ時々やつてくる組合の書記の工藤の家へ行つてみやうと思つた。それに、組合の人達の樣子や、今度のことの内容や、その範圍なども知りたかつた。然し工藤もやつぱり檢束されてゐた。
――工藤の家へ、警官が踏みこんだ時は、家の中は眞暗だつた。警官は、「オイ、起きろツ!」と云ひながら、電燈のつる下がつてゐるあたりを、手さぐりした。三人ゐる子供が眼をさまして、大きな聲で一度に泣き出した。電燈の位置をさがしてゐる警官は「保名」でも踊る時のやうな手付きをして、空をさがしてゐた。と、闇の中でパチン、パチンとスウイツチをひねる音がした。「どうしたんだ、えゝ?」
「電燈はつかんよ。」
それまで何も云はないでゐた工藤は、警官の周章てゝゐるのとは反對に、憎いほど落付いた聲で云つた。
工藤の家は電燈料が[#「電燈料が」は底本では「電燈科が」]滯つて、二ヶ月も前から電燈のスウイツチが切られてしまつてゐた。然し、と云つて、ローソクを買ふ金も、ランプにする金もなかつた。夜になると、子供を隣りの家に遊ばせにやつたり、妻のお由は組合に出掛けたりして、六十日も暗闇の中で過ごしてゐた。「明るい電燈、明るい
前へ
次へ
全99ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング