持の隅から隅まで浸してゆくやうに思はれた。一つの集團が、同じ方向へ、同じやうに動いてゆくとき、そのあらゆる差別を押しつぶし、押しのけて必ず出てくる、たつた一つの氣持だつた。「關羽」の鈴本も、渡も、「ドンキ」の阪西も、齋藤も、石田も、又新米の柴田も、その他の組合員も、たつた一つの集團の意識の中に――同じ方向を持つた、同じ色彩の、調子の、強度の意識の中に、グツ、グツと入り込んでしまつてゐた。「それ[#「それ」に傍点]」は何時でも、かういふ時に起る不思議な――だが、然しそれこそ無くてはならない、「それ」があればこそ、プロレタリアの「鐵」の團結が可能である――氣持だつた。
 今、この九人の組合員は、九人といふ一つ、一つの數ではなしに、それ自身何かたつた一つのタンク[#「タンク」に傍点]に變つてゐた。彼等は互に腕と腕をガツシリ組み合せ、肩と肩をくつつけ、暗い然し鋭い眼で前方を見据え、――それは恰かも彼等のたつた一つの目標に向つて――「××」に向つて、前進してゐるかの如く、見えた。

         三

 お惠は夫があんな風にして連れて行かれてから、何處かガランとした家の中にゐる事が、たまらな
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