だ二十にならない柴田は初めつから一言も、ものを云へず、變にひきつツた顏をしてゐた。彼は皆がどなる時、それでも、それについて自分でもさうしやうと[#「「しやうと]は底本では「しやと」]努めた。が、半分乾きかけた粘土のやうになつてゐる頬は、ピクピクと動いたきり、いふことをきかなかつた。彼は、何時でもかういふ事には、これから打ち當る、だから早く慣れきつてしまつて置かなければならない、さう思つてゐた。今、然し初めての柴田にはやつぱりそれはドシンと體當りに當つてきた。彼はひとたまりもなく、投げ出された形だつた。彼は寒さからではなしに、身體がふるえ、ふるえ――齒のカタ/\するのを、どうしても止められなかつた。
 皆は灰色の一かたまりにかたまつて、街の通りを、通りから通りへ歩いて行つた。寒さを防ぐために、お互に身體をすり合せ、もみ合せ、足にワザと力を入れて踏んだ。ひつそりしてゐる通りに、二十人の歩く靴音がザツク、ザツク……と、響いて行つた。
 組合の者達は妙にグツと押し默つてゐた。さうしてゐるうちに、皆には然し、不思議に一つの同じ氣持が動いて行つた。インクに浸たされた紙のやうに、みる/\それが皆の氣
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