くない! 鈴本は變な豫感を渡に對して感じた。
皆は前と後と兩側を巡査に守られながら、階段をゾロ/\降りた。然し渡を除くと皆元氣だつた。かういふ事には慣れてゐた。一つ、二つ平手が飛んだ。
普段何かすると、すぐ「我々は戰鬪的でなければならない。」と、誰れ彼れの差別なく振りまはして歩く齋藤は、然し矢張り一番元氣だつた。彼が鈴本のところへ寄つてくると、
「明日の演説會《あれ》に差支えるから、我ん張らう。」
「うん、やる必要がある。」
齋藤が、そして何か云はうとした。
「オイ/\ツ! 」いきなり齋藤の後首に警官が手をかけると、こづき廻はすやうにして、鈴本から離して別な方へ引張つて行つた。
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民衆の旗、×旗は…………
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前の方で、誰か突然歌ひ出した。――、ピシリ、といふ平手の音がした。
「何んだ、この野郎!」身體でもつて、つツかゝつて行くの聲だつた。サーベルで×××つける音が、平手打ちの音に交つて聞えた。
皆は前と後と、すつかり腕をつなぎ合はせてゐた。ワザと強く足ぶみをして歩いた。
「うるせえツよ!」齋藤が、小さい身體一杯に叫んで、立ち止
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