。」
續いて上つてきた和服が片つ端から、書類を調べ始めた。
「貴樣等、こんな處にゴロ/\してるから碌な[#「碌な」は底本では「録な」]ことをしねえ事になるんだ。」
巡査が横着な恰好に構えてゐる「關羽」そつくりの鈴本をぢろり、ぢろり見ながら、毒ツぽい調子で皆に聞えるやうに、はき出した。鈴本はそんなものにからかつてはゐられなかつた。
「働いてみろ、つまらん考へなんか無くなるから。」
――獨りでしやべれ、誰が相手になつてゐられるもんか!
「一つ世話して貰らひたいもんです。」
阪西は何時もの人の好い笑ひ聲をして、茶[#「茶」に傍点]を入れた。――組合の連中は阪西を足りない事にしてゐた。何處へもつて行つても、つぶしがきかないし、仕事がルーズだつた。然しその人のよさが憎めない魅力をもつてゐた。
その時、渡が周章てゝ階段をかけ降りやうとした。が、巡査がすぐその前に立つてしまつた。「何處へ行くんだ。」
鈴本はその渡の態度を見て、おや、と思つた。渡はその態度ばかりでなしに、顏の色がちつとも無かつた。普段若手として、何時でも一番先頭に立つて働いてゐる、がつしりした、「鐵板」みたいな渡が、渡らし
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