打倒演説會を開くことに決めてゐた。その晩は、全員を動員して宣傳ビラを市内中に貼らせたり、館の交渉をしたり、それに常任委員會があつたり――やうやく二時になつて、一先づ片付いたのだつた。そこをやられた。
 七八人の組合員は、いきなり掛蒲團を剥ぎとられると、靴で×られて跳ね起きた。皆が丸太棒のやうにムツクリと起き上ると、見當を失つて身體をよろつかせ、うろ/\した。
 鈴本は、しまつた! と思つた。彼は實は、或は[#「或は」に傍点]と思つてゐた。言論の自由は完全に奪はれてゐる、そこへ持つてきて、無理にねぢ込んで、御本尊――田中内閣の打倒運動をやらうとする、××がその當日になつて、中止々々で辯士を將棋倒しにするのは分り切つてゐるし、覺悟はしてゐたが、その前に[#「その前に」に傍点]或ひは(野×達のことだ!)總檢束でもしないか、よくやりたがる手だ、さう思つてゐた、それが來たんだ、――瞬間さう鈴本は思つた。
「組合のドンキ」で通つてゐる阪西が[#「阪西が」は底本では「坂西が」]、猿又一つで、
「何かあるのか。」と、顏なじみのスパイに訊いた。
「分らんよ。」
「分らん? 馬鹿にするなよ。――睡いんだぜ
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