張り一番大きな、根本的なものだと思ふんだ。」龍吉は何かを考へて、フト言葉を切つた。「××的理論なくして、××的行動はあり得ないツて言葉があるさ、君も知つてる有名な奴さ。けれども、それはそれだけぢや本當は足りないと、俺は思つてるんだ。その言葉の底に當然のものとして省略されてる大物は、何んと云つたつて情熱だよ。」
「線香花火の情熱はあやまるよ。牛が、何がなんであらうと、然し決してやめる事なく、のそり/\歩いてゆく。それが殊に俺達の執拗な長い間の努力の要る運動に必要な情熱ぢやないか、と思ふんだ。」
「さうだ。情熱は然し、人によつて色々異つた形で出るものだよ。俺たちの運動は二三人の氣の合つた仲間ばかりで出來るものぢやないのだから、その點、大きな氣持――それ等をグツと引きしめる一段と高い氣持に、それを結びつけることによつて、それ等の差異をなるべく溶合するやうに氣をつけなければならないと思ふんだ。――それア、どうしたつて個人的に云つて不愉快なこともあるさ。だが勿論そんなことに拘はるのは嘘だよ。俺だつて渡のある方面では嫌なところがある。渡ばかりぢやない。然し、決してそれで分離することはしないよ。それぢや組織體としての俺達の運動は出來ないんだから。」
「うん、うん。」
「これから色々困難なことに打ち當るさ。さうすればキツトこんな事で、案外重大な裂目を引き起さないとも限らないんだ。俺たちはもつと/\、かういふ隱れてゐる、何んでもないやうな事に本氣で、氣をつけて行かなければならないと思つてるよ。」
「うん、うん。」石田は口のなかで何邊もうなづいた。
二人がストーヴに寄つてゆくと、皆は巡査と一緒に猥談をやつてゐた。どういふわけで引張られてきたかちつとも分らないと云つてゐた勞働者は二三人ゐた。それ等は初めからオド/\して、側から見てゐられない程くしやん[#「くしやん」に傍点]としてゐた。が、時々その猥談に口をはさんだり、笑つてゐた。話がとぎれて、一寸皆がだまる事があると、走り雲の落してゆく影のやうに、彼等の顏が瞬間暗くなつた。
齋藤が手振で話してゐたのは、女の××のことだつた。それが口達者なので、皆を引きつけてゐた。話し終ると、
「ねえ、石山さん、煙草一本。」
一生懸命に聞いてゐた頭の毛の薄い、肥つた巡査に手を出した。
石山巡査は、下品にえへ、えへゝゝゝと笑ひながら、上着の内隱し[
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