し。かゝる間に船君の病者もとよりこちごちしき人にて、かうやうの事更に知らざりけり。かゝれども淡路のたうめの歌にめでゝ、みやこぼこりにもやあらむ、からくしてあやしき歌ひねり出せり。そのうたは、
[#ここから1字下げ]
「きときては川のほりえの水をあさみ船も我が身もなづむけふかな」。
[#ここで字下げ終わり]
これは病をすればよめるなるべし。ひとうたにことの飽かねば今ひとつ、
[#ここから1字下げ]
「とくと思ふ船なやますは我がために水のこゝろのあさきなりけり(るべしイ)」。
[#ここで字下げ終わり]
この歌は、みやこ近くなりぬるよろこびに堪へずして言へるなるべし。淡路の御の歌におとれり。ねたき、いはざらましものをとくやしがるうちによるになりて寢にけり。
八日、なほ川のほとりになづみて、鳥養の御牧といふほとりにとまる。こよひ船君例の病起りていたく惱む。ある人あさらかなる物もてきたり。よねしてかへりごとす。男ども密にいふなり「いひぼしてもてる」とや。かうやうの事所々にあり。今日節みすればいをもちゐず。
九日、心もとなさに明けぬから船をひきつゝのぼれども川の水なければゐざりにのみゐざる。この間
前へ 次へ
全30ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紀 貫之 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング