イ)げなど喜ぶ。その音を聞きてわらはもおきなもいつしかとし思へばにやあらむ、いたく喜ぶ。このなかに淡路のたうめといふ人のよめる歌、
[#ここから1字下げ]
「追風の吹きぬる時はゆくふねの帆手うちてこそうれしかりけれ」
[#ここで字下げ終わり]
とぞ。ていけのことにつけていのる。
廿七日、風吹き浪あらければ船いださず。これかれかしこく(八字誰も誰もおそれイ)歎く。男たちの心なぐさめに、からうたに「日を望めば都遠し」などいふなる事のさまを聞きて、ある女のよめる歌、
[#ここから1字下げ]
「日をだにもあま雲ちかく見るものを都へとおもふ道のはるけさ」。
[#ここで字下げ終わり]
又ある人のよめる。
[#ここから1字下げ]
「吹くかぜの絶えぬ限りし立ちくれば波路はいとゞはるけかりけり」。
[#ここで字下げ終わり]
日ひと日風やまず。つまはじきしてねぬ。
廿八日、よもすがら雨やまず。けさも。
廿九日、船出して行く。うらうらと照りてこぎゆく。爪のいと長くなりにたるを見て日を數ふれば、今日は子の日なりければ切らず。正月なれば京の子の日の事いひ出でゝ、「小松もがな」といへど海中なれば難しかし。ある女の
前へ
次へ
全30ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紀 貫之 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング