とうたふぞ哀なる。かくうたふを聞きつゝ漕ぎくるに、くろとりといふ鳥岩のうへに集り居り。その岩のもとに浪しろくうち寄す。※[#「楫+戈」、第3水準1−86−21]取のいふやう「黒(きイ有)鳥のもとに白き浪をよす」とぞいふ。この詞何とにはなけれど、ものいふやうにぞ聞えたる。人の程にあはねば咎むるなり。かくいひつゝ行くに、船君なる人浪を見て、國よりはじめて海賊報いせむといふなる事を思ふうへに、海の又おそろしければ、頭も皆しらけぬ。七十八十は海にあるものなりけり。
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「わが髮のゆきといそべのしら浪といづれまされりおきつ島もり」
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※[#「楫+戈」、第3水準1−86−21]取いへ(りイ有)。
廿二日、よんべのとまりよりことゞまりをおひてぞ行く。遙に山見ゆ。年九つばかりなるをの童、年よりは幼くぞある。この童、船を漕ぐ[#「漕ぐ」は底本では「槽ぐ」]まにまに、山も行くと見ゆるを見て、あやしきこと歌をぞよめる。そのうた(四字イ無)、
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「漕ぎて行く船にて見ればあしびきの山さへゆくを松は知らずや」
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とぞいへる
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