で腰をかけていた。
「お前は人間界で何をしてる」
 仙妃の片手は青年の肩にかかっていた。青年は懼《おそ》る懼る答えた。
「私は盗尉部《とういぶ》の下吏《したやくにん》でございます」
「名は何という」
「――といいます」
「年は幾歳」
「――でございます」
「両親があるか」
「――――」
「毎日、どんなことをしてる、面白いことがあるか」
「貧乏で、食物のことに困っておりますから、面白いことはございません」
「食物に何故困る、何でも食べる物があるではないか」
「それが貧乏人でございますから」
「それでは、私が困らないようにしてあげよう、お前には家内があるか」
「家内もございません、貧乏でございますから、持つことが能《でき》ません」
「それは可哀そうである」
「は」
「これから、もう何も困ることはない、私が幸せにしてあげる」
「有難うございます」
「そんなに、頑《かた》くるしくしないが良い、お前とは天縁がある」
 仙妃は青年の肩にかけていた手にねっとりと力を籠めた。青年は初めて仙妃の顔を見た。色の青黒い眼尻の切れあがった、きりりとした男のような眼をした仙妃の顔は青年の心を軽くした。

 窓の
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