解らなかった。と、間もなく彩雲《あやぐも》のおりてきたように若い女の渦巻が起ってそれが二人の方に来た。その若い女の渦巻の中に背の低いずんぐりした中年の婦人がいた。それは他の女達とは比べものにならないような華麗《はなやか》な衣《きもの》を着ていた。その婦人の一行が近づいてくると、老嫗はそれに指をさしながら青年に向って言った。
「あの方が仙妃であらせられる、そそうのないように」
 青年はそれを聞くとそのままそこへべったりと這いつくばってしまった。
「は」
 青年の前に来た仙妃は笑って青年を見おろした。
「お起《た》ち」
 青年は懼《おそ》れで一ぱいになっているので起てなかった。仙妃は手を延べて青年の片手の手首を握った。
「お前は仙縁があるから、ここへくることができた、お前を幸せにしてあげるから懼れることはない」
 青年は夢の中の人のような気になって起ちあがった。仙妃は青年の手を握ったままで歩きだした。若い女達は二人を中にして歩いた。
 一行はすぐ近くの室《へや》の中へ入って往った。夢の中の人のようになっていた青年は、何か言う仙妃の詞を聞いて四辺《あたり》に注意した。彼は綺麗な室に仙妃と並ん
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